1 はじめに 

 外科医や内視鏡医は、長時間の立位・無理な拘束姿勢を強いられることで、腰痛をはじめとする筋骨格系障害(MSDs)のリスクが高い職種の一つです。術者の疲労は集中力やパフォーマンスの低下、ひいては医療安全にも直結します。本稿では、こうした立位作業中の身体負荷に対する人間工学的な介入の実践例として、アルケリス株式会社が開発・販売する外科医向けアシストスーツ「アルケリス」と、内視鏡医への応用が期待されるサポートデバイス「スタビレフト」を紹介します。 

2 内容 

1.アシストスーツ「アルケリス」 

 アルケリスは、もともと「長時間立った姿勢で手術を行う医師の負担を軽減できないか」という、千葉大学フロンティア医工学センター(当時)の川平先生、中村先生との出会いを発端に、株式会社ニットー(横浜市)が開発したデバイスです。試作1号機から1000人以上への装着テストを重ねて改良を進め、2020年には製品化され、アルケリス株式会社として事業化されました。スネとモモの2点で体重を分散して支えることで、足腰に負担なく立位姿勢を保持するアシストスーツです。電源やモータを用いず、メカニカルな機構のみで機能するため、電池切れの心配がなく、装着したまま歩行もできます。実際に長時間手術を行う外科医からは「オペ終わりの疲労感が全く違う」「体勢の微調整ができ手元が安定する」といった声があり、臨床使用中の筋電計測の結果からも、アルケリスの装着によって下肢の筋活動量が減少していることが明らかになっています1)。現在、国内外90施設以上の医療機関で導入されています。

2.サポートデバイス「スタビレフト」 

 スタビレフトは、椅子型のサポートデバイスです。ただし、どっしりと座面に座るのではなく、アルケリスと同様にスネ・モモで体重を分散して寄りかかることで、足腰への負荷を軽減します。左足側を支えつつ右足はペダル操作を自由に行える構造が特長で、本来は立ちミシン作業向けに開発されましたが、フットスイッチを多用する内視鏡医の作業姿勢とも親和性が高いデバイスです2)。 

3 おわりに 

 これらのデバイスは、医療従事者の身体負担を人間工学的な介入によって軽減する実践例の一つであり、MSDs予防と就労継続に資するものです。一方で、製品特性と作業特性がマッチしないと、負荷軽減効果が発揮されないばかりか、逆に作業性が落ちてしまうこともあります。そのため、医療分野おいては診療科や術式に応じた使い分けや導入支援、製品開発が、今後の論点になると考えています。また、理想的な実験室環境だけでなく、実際の臨床現場で効果検証を重ねることも重要です。現在、「アルケリス」および「スタビレフト」について、IoTセンサや動画などによる作業動作解析や筋骨格解析などに基づいた身体負荷の定量評価に取り組んでいます。
医療従事者が心身ともに健康で働き続けられてこそ、高度で持続可能な医療提供体制は実現します。誰よりも患者さんを優先する医療従事者の方々を、アルケリス株式会社は人間工学の知見を活かして足元から支えていきます。  

推薦図書・論文など 

1) Kawahira H, Nakamura R, Shimomura Y, Oshiro T, Okazumi S. Clinical Use of a Wearable Lower Limb Support Device for Surgeries Involving Long Periods of Standing. J Jpn Soc Comput Aided Surg. 2018; 20(3): 121-125. 

2) 三澤昇, 井上喬二郎, 鈴木瞳, 田村繁樹, 日暮琢磨, 中島淳. 立位負荷軽減器具を用いたESDでの下肢負荷についての検討. 第2回内視鏡関連MSDs予防のための人間工学的対策研究会; 2024年11月3日; 三宮研修センター, 神戸. https://www.jges.net/wp-content/uploads/2024/08/2nd_MSDs.pdf 

アルケリス株式会社. 長時間の立ち仕事による足腰の負担を軽減するアシストスーツ「アルケリス」(archelis FX). 令和3年度 厚生労働省高年齢労働者安全衛生対策機器実証事業 実証報告書(実証番号:2021-01). 実証機関:一般社団法人埼玉県環境検査研究協会; 2022. 
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000918477.pdf

アルケリス株式会社.クイック診断サービス 
アルケリスにセンサを内蔵することで、装着中の作業動作を解析し、得られる負担軽減効果および当該工程におけるアルケリスの適性度を診断するサービス 
https://www.archelis.com/product/product-archelis/quick-diagnosis-release

Matsuzaki I, Ebara T, Tsunemi M, Fujishiro M. Sit-stand endoscopic workstations equipped with a wearable chair. VideoGIE. 2019; 4(11): 498-500. https://doi.org/10.1016/j.vgie.2019.06.009.

著者プロフィール 

 外岡 学志(Satoshi Tonooka) 
アルケリス株式会社 開発部 

日本人間工学会・日本口腔インプラント学会 

アルケリス株式会社は「世界の立ち仕事をアップデートする」をミッションに、立ち仕事に従事する人々の身体負荷を軽減するアシストスーツ「アルケリス」やスタビシリーズなどのサポートデバイスの開発・販売を行っています。中でも、動画解析やMoCapなどによるセンシング、筋骨格解析、機械学習などを活用し、身体負荷の定量評価や人間工学的介入による負荷軽減効果の検証に従事し、それらの事業化にも取り組んでいます。