1 はじめに


 雪国の冬道は滑りやすく、転倒のリスクが常にあります。一般的には滑り止めのついた冬靴を履きますが、脳卒中などによる足の麻痺で「下肢装具」をつけている方にとっては、大きな問題があります。装具をつけると足全体がひと回り大きくなるため、市販の冬靴はきつくて履くことが出来ません。
 装具を提供する義肢装具士や医師・療法士にとって、一生懸命に提供、調整した装具が「履ける靴がない」という理由で使われず、患者さんが外出を諦めてしまう現状は、本当にもどかしく、大変しんどい経験です。また、麻痺を抱えながら就労を継続している方も少なくなく、こうした移動に関する制約は活動範囲や社会参加に直結しうる課題です。この「靴の問題」でリハビリの成果が途切れてしまう現状を打破するため、地元のメーカーや病院と協力し、専用の冬靴開発をスタートさせました。


2 内容


① 現場の声を形にする工夫
 開発にあたり、まずは医師や義肢装具士が日頃受けている相談を整理しました。求められたのは、装具の厚みをカバーする「ゆとり」と、麻痺があっても片手で「楽に脱ぎ履きできる大きな開き」です。もちろん、冬靴としての「滑りにくさ・暖かさ・水の染みにくさ」も欠かせません。さらに、装具をつけない方の足もグラつかないよう、左右でフィット感を細かく調整できる仕組みを重視しました。


② 試作した「専用ブーツ」の特徴
 長年、長靴作りを手がける株式会社ミツウマ(小樽市)の協力を得て、試作品を作りました。中敷きを二重にし、装具の有無に合わせて靴の内容量を調整できる超深靴構造を採用しました。また、靴の両側にファスナーをつけることで、履き口が前後に大きく開くようにしました。さらに、ふくらはぎの後ろに切り込みとベルトを配置し、装具の太さに合わせて締め具合を調整できるようにしています。これにより、歩いている時のフィット感を確保する構造としました。

③生活の中でのテスト
 現在、実際の装具ユーザにこのブーツを履いてもらい、冬の屋外での使用を含めた生活の中でのテストを行っています。
 ユーザへのインタビューでは、「雪道でも心理的に安心できる」「普通のスノーブーツに見えてうれしい」「もう少し履き口が開くとより良い」といった、専門職だけでは収集できない貴重な意見が集まっています。これらをすぐに設計へ反映させ、より使いやすい靴へと改良を続けています。

3 おわりに

 私たちの目的は、単に靴を作ることではなく、「靴が履けないから外に出られない」という装具ユーザと専門家の悩みと不自由さを解消することです。
 装具が靴に邪魔されることなく、冬の外出が当たり前の日常になること。これからも現場のニーズを形にし続け、道具が体の一部として馴染むような支援を研究から社会実装まで一貫して続けていきたいと考えています。
 なお、本内容の一部は第30回日本義肢装具士協会学術大会で報告しています。

推薦図書・論文など

永田泰浩,金田安弘,他.札幌市における転倒予防を意識した市民生活の実状.北海道の氷雪.2015, 34, p.75-78.

積雪寒冷地における「冬道の転倒事故」という身近かつ切実な課題を、市民のリアルな「装備(冬靴・手袋・帽子)」と「行動」の視点から調査した貴重な研究報告です。

鈴木大介著.脳が壊れた.東京,新潮社(新潮新書),2016.

41歳で脳卒中を発症したルポライターの方による一冊です。頭の中で何を考えているか、世界をどうとらえているか、脳卒中による高次脳機能障害を当事者の視点で描いています。「人間」の個別性や、マニュアル化できない不自由さを知るための良質な当事者研究としておすすめしたいです。

著者プロフィール

佐藤健斗 Sato Kento

北海道科学大学 講師 義肢装具士

博士(理工学)

日本人間工学会、産業保健人間工学会、日本義肢装具士協会、日本義肢装具学会、日本リハビリテーション工学協会、支援工学理学療法学会

2011年より義肢装具士として臨床現場での実務に従事した後、2019年に北海道科学大学保健医療学部義肢装具学科に入職。2025年より工学部機械工学科兼担。日本義肢装具士協会北海道支部 副支部長、同協会の脳卒中下肢装具WG委員。