1. はじめに

 私たちの日常生活において、椅子に座る動作は欠かせないものです。しかし、座るという行為そのものが、身体に負荷をかける姿勢であることをご存じですか。ヒトは、長い年月を経て二足歩行に適した身体構造に進化しており、解剖学的には立っている姿勢が自然な状態です。そのため、座る姿勢をとることで、知らず知らずのうちに筋骨格系へ負担をかけています。そこで、オフィスチェアなど人間工学的に配慮された椅子は、そのような身体への負荷を軽減する道具として開発されています。デスクワークが増加している現代では、着座姿勢や椅子への理解を深めることが、健康的な生活を送るために重要といえるでしょう。本稿では、人間工学の観点から“好ましい”着座姿勢のとり方について述べていきます。

2. 内容

 椅子に座る際、「膝を90度に曲げ、足を揃えて、背もたれを使わず背筋を伸ばす」姿勢が“正しい”とされることが多いのではないでしょうか。「グー・ピタ・ピン」というフレーズで小学生向けに啓発されており、就職活動の面接のときにも、この姿勢が推奨されています。実のところ、ここでいう“正しい”は、“礼儀正しい”という意味のため、身体的負荷を軽減するという人間工学の観点から見ると、必ずしも長時間持続できる姿勢とはいえません。
 “好ましい”着座姿勢は、身体への負担を軽減し、自然な姿勢をサポートすることを目的としています。その鍵となるのが人間工学的に配慮された椅子の選択です。多くのオフィスチェアでは、腰椎の自然なカーブ、いわゆる「S字カーブ」を支持するように設計されています。そのため “好ましい”着座姿勢とは、椅子の座面の奥に深く腰を据え、背もたれにしっかりと背中を密着させることにあります。この姿勢は、骨盤が後傾することを予防し、背骨が自然な形状を保持するうえで有効です。また、膝の角度が鋭角になったり、座面が高すぎたりすると下肢の血流が阻害され、足の冷えやむくみの原因になります。膝の角度は、人間工学的には90~130°程度が理想とされ、適度に足を動かせるように、足元のスペースを確保することをお勧めします。さらに、椅子の座面の回転機能は、身体を無理にねじることなくモニター画面などの対象物を正面に捉えることができ、これも健康障害リスクを軽減するために重要です。

図1 “好ましい”着座姿勢

3. おわりに

 いかに人間工学的に配慮されたオフィスチェアに“好ましい”姿勢で座っていたとしても、長時間同じ姿勢でいることは身体に悪影響を及ぼします。1時間に1回程度は立ち上がり、歩いたり、軽くストレッチしたりすることが推奨されます。職場や家庭で使うオフィスチェアを検討されている方は、家具店やショールームに訪問し、購入前に実際の椅子に少なくとも5分以上は座り、自分の身体とのフィット感を確認することをお勧めします。適切な椅子を選択し、人間工学的に“好ましい”着座姿勢を心がけることで、健康的で快適な日常を目指しましょう。

推薦図書

ピーター・オプスヴィック、“座る”を考え直す、ガイアブックス、2009年

「バランスチェア」をデザインした、ノルウェーのプロダクトデザイナーであるオプスヴィックの著書。オプスヴィックは、「座る」を「立ち姿と寝姿の中間に位置する多数の姿勢を示す言葉」と定義し、人間工学的な視点をいれた様々な椅子をデザインしています。写真や図版が多く、「座る」とは何かを問い直す機会になる本です。

著者プロフィール

浅田晴之 Asada Haruyuki

株式会社オカムラ ワークデザイン研究所

エグゼクティブ・リサーチャー
一級建築士、認定人間工学専門家

所属学会:日本人間工学会、日本建築学会、日本オフィス学会

「豊かな発想と確かな品質で、人が活きる環境づくりを通して、社会に貢献する」をミッションに掲げ、オフィスから商業施設、病院、学校、そして物流施設まで、多様な場づくりを行っている企業に勤めています。オフィス環境の構築に関わる、運用、評価に関する調査研究や、人間工学的な視点に立った製品の研究開発に関わってきました。社内外で、人間工学の教育活動も実施しています。