1.はじめに

 日常業務にはさまざまな作業負荷が伴います。肩や腰の痛みなど、筋骨格系障害に悩まされている医療従事者の方、あるいはそのような同僚や上司を身近に見ておられる方も少なくないでしょう。多くの人は「休むことが大切」と理解していても、「どのように休むのがよいのか」「いつ休むべきなのか」まで意識している方は多くありません。本稿では、人間工学の観点から、効率的かつ実践的な休み方についてご紹介します。

2.内容

・同一拘束姿勢を解除する

 筋骨格系障害は、同じ姿勢を長時間続ける「同一拘束姿勢」によって起こりやすいとされています。たとえば、立ち仕事が多い場合は一時的に座る環境を整える、逆に座位での作業が多い場合は立つことのできる環境を整えるなど、姿勢の変化(姿勢変容)を促すことが重要です1)

 ただし、立ち仕事の方が休む際に深く沈み込む椅子を使用すると、姿勢変化が起こりにくくなるため適切ではありません。立ち座りの切り替えがしやすい、背もたれのないスツールのような形態が望まれます(例:株式会社オカムラ「pirouetto(ピルエット)」シリーズ)。

・負荷のかかる部位を意識し、その負荷を最小限にする

 私はX線透視下内視鏡治療を専門としています。緻密な動作を要する内視鏡検査・治療では、上半身の筋骨格系障害を来たしやすく、またX線防護衣による肩への荷重も大きいため、特に上半身に負担が集中します。

 したがって、こうした作業特性を踏まえ、負荷の大きい部位を意識的にリリースする休み方(図1)が理想的です。実験的検証の結果、ただ休むのではなく、負荷部位を意識的に解除する人間工学的手法に基づく休息(ergonomic microbreak)が有効である2)ことが示されました(図2)。

図1 人間工学に基づく小休止法の一例

 小休止の際に、X線防護衣による肩への荷重を軽減(リリース)する方法を示しています。ご自身の作業形態に合わせて応用・実践してみてください。

図2 頸肩部における筋骨格系症状の時間的推移

 人間工学に基づく小休止法(●)を実践した群では、通常群・小休止群(○)と比較して、筋疲労の抑制効果が認められました。

・疲れを感じてから休むのではなく、定期的に休む

 多くの人は、疲れたときに休むべきだと考えます。しかし、医療現場では患者さんを最優先する意識が強く、十分に休めないまま疲労が蓄積していくことも少なくありません。

 また、長時間の高集中作業中には、一時的に疲労や不快感を自覚しにくくなるワーキング・エンゲージメント(没入型作業)の状態が報告されています。この状態が長く続くと、作業終了後に一気に疲労が顕在化するリバウンド疲労につながることがあります。

 そのため、疲れを感じる前に定期的に休むことが重要です。私たちは検証結果および実践経験に基づき、30分に1回の短い休息を推奨しています。

3.おわりに

 筋骨格系障害は、発症後の治療も重要ですが、何よりも予防が大切です。痛くなってから休むのではなく、「痛みを生じさせないように休む」という意識への転換が求められます。

 医療従事者が健康であることは、自らが培ってきた技術や経験を次世代へ継承することにつながり、結果として患者さんにより良い医療を提供する基盤ともなります。

 本稿で紹介したTipが、皆様の明日からの診療現場で少しでもお役に立てば幸いです。

推薦図書・論文

1) Ebara T, Kubo T, Inoue T, et al. Effects of adjustable sit-stand VDT workstations on workers' musculoskeletal discomfort, alertness and performance. Ind Health. 2008; 46(5): 497-505.

2) Hori Y, Hayashi K, Ebara T, et al. Ability of ergonomic timeout to reduce musculoskeletal discomfort related to fluoroscopic endoscopy. Endosc Int Open. 2021; 9(12): E1909-E1913.

著者プロフィール

堀 寧 Yasuki Hori

名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 助教

博士(医学)
日本人間工学会:認定人間工学準専門家
産業医

日本消化器内視鏡学会附置研究会
内視鏡関連MSDs予防のための人間工学的対策研究会 事務局・世話人
医療労働関連MSDs研究部会 世話人

透視下(レントゲンを使用した)内視鏡治療を専門とする消化器内科医です。治療内視鏡は、緻密な操作と長時間の姿勢拘束を要します。さらに、レントゲンによる職業被ばくを最小限に抑えるため、7〜8kgの鉛製プロテクターを装着したまま処置を行っています。

医師としてのキャリアも中盤に差しかかり、肩や腰の痛みを訴える同業者が周囲に増えていることに気づきました。少しでもその負担を軽減できればと考え、人間工学の門を叩いたのが現在に至るきっかけです。

私たちの培ってきた技術と経験をできる限り長く継承し、医療と患者さんに還元していきたいと考えています。