1. はじめに

 ヒトの状態や行動を把握する取り組みは多様な分野で進んでおり、負担の少ない計測手法が求められています。その中で、対象に触れずに計測できる非接触センシング技術が注目されています。ここでは、可視光カメラによる非接触センシングの特徴と活用の可能性を概説します。

2. 内容

①可視光カメラによる非接触センシングの現状

 近年、可視光カメラ(一般的な撮影用カメラ)と画像解析技術の発展により、ヒトの状態や行動を非接触で把握する試みが広がっています。姿勢や動作の推定に加え、脈波(rPPG:Remote Photoplethysmography)1)、視線や瞬目(まばたき)2)、表情といった情報も、映像から解析できるようになってきました。これらの技術は、映像から特徴量を抽出し、状態を推定するという共通の枠組みに基づいており、処理の高速化によりリアルタイムでの利用も可能になりつつあります。その結果、研究用途に限らず、実際の現場での活用が検討される段階に入っています。

1台の可視光カメラによる脈波(上)・瞬目(中)・眼球運動(下)のリアルタイム同時推定

②技術的特徴と利点・限界

 可視光カメラを用いた非接触センシングの最大の特長は、対象にセンサを装着する必要がなく、計測による負担や行動への影響を抑えられる点です。また、既存のカメラ設備を活用しやすく、1台のカメラから複数の指標を同時に取得できる点も利点です。一方で、照明条件や撮影位置の影響を受けやすく、遮蔽や姿勢の変化によって精度が低下する場合もあります。

 さらに実運用の場面では、取得する情報の扱い方が利用者の心理的負担に直結します。どこまでの情報を保存し、どの段階で匿名化・消去を行うのか、などのデータ管理の方針が明確でなければ、技術的利点があっても現場で受け入れられにくく、目的や利用範囲を透明化することが、受容性を高めるうえで重要です。

③応用分野と活用の方向性

 可視光カメラの非接触センシングは、単独で高精度な計測を目指す技術というより、低負担で継続的に状態を把握するための手段として位置づけることが重要です。医療や産業など幅広い分野において、他のセンサや情報と組み合わせながら、人に配慮した形での活用が期待されます。

3 おわりに

 可視光カメラによる非接触センシングは、装着による負担を避けつつ、ヒトの状態や行動を継続的に把握できる手段として注目されています。撮影条件などの影響や、プライバシーへの配慮などの課題はありますが、技術と運用の両面から改善が進められています。技術の利便性だけでなく、人に配慮した導入と継続運用が、現場で活きるセンシングにつながります。

著者プロフィール

竹内 大樹 Hiroki Takeuchi
産業医科大学 産業保健学部 安全衛生マネジメント学講座 助教 

日本人間工学会、自動車技術会、日本顔学会

博士(工学)

可視光カメラや深度センサなどを用いた非接触センシングに関する研究に取り組んでいます。「低負担で継続的なヒトの状態推定」を軸に、現場導入を見据えた受容性や運用設計まで含めた技術活用に関心を持っています。