1 はじめに

 腰痛は、労働現場において発生する業務上疾病のうち約6割を占め、その多くは医療介護の現場や製造・物流などの心身の負担が大きい現場で多く発生しています。またそれは欠勤だけでなく、プレゼンティーズムと呼ばれる生産性・安全性の低下による経済損失に大きく影響します。近年、このような課題を解決するために、腰部の負担を軽減することを目的としたアシストスーツの研究開発が様々な大学やメーカーで行われています。ダイヤ工業でも、これまで医療用コルセットをはじめ各種サポーター、インナーウェアを開発・製造・販売してきた中で培われた縫製やフィッティングの技術を活かし、衣服のように手軽に着用できるアシストスーツの開発を進めています。本稿ではその事例を紹介します。

2 内容

1.ドクターのための前傾姿勢を支えるアシストスーツ

 ⼿術中の前傾姿勢による肩・背中・腰への負担を軽減するために、外科医師と共同で姿勢アシストスーツを開発しました。外科手術では長時間同じ姿勢を維持しなければならず、手術後には肩から腰にかけて筋肉ががちがちになり動くことも大変なほどだったといいます。⻑時間に及ぶ⼿術において前傾姿勢を取り続けるためには肩や背中、腰など広い範囲に負担がかかるため、姿勢サポーターと腰部コルセットの2つの機能を組み合わせたウェアタイプのアシストスーツを開発しました。衣服のようにファスナーで簡単に着用でき、前傾姿勢をアシストする機能を発揮させるためには腰部にあるベルトを締めこむだけです。監修していただいた医師に試作品を実際の手術中に着用してもらい、改善を繰り返すことで完成しました。⽬の前の患者様に集中しやすい環境を提供するため、医療従事者に向けて開発した製品です。

2.海上保安庁と共同開発 引っ張り動作を補助するアシストスーツ

 船員の災害発生率は陸上の労働者と比較すると2倍以上の割合を示しています。海上保安庁においても、乗組員の健康安全を考えるうえで、女性職員の増加や乗組員の高齢化に伴い、重筋作業における身体負担の軽減が課題となっていました。特に船を係留するロープを引っ張る作業が腕や肩、腰にかかる負担が大きいとのことで、従来のアシストスーツにはない引っ張り動作を補助するための製品を開発しました。ここで参考にしたのは綱引きのコツです。綱を強く引くには、重心を低く構え、脚から背筋を伸ばして後方へ傾けながら身体全体で引くことが必要と言われますが、人間工学的にもこれは正しく、肩や腰部にかかる負担を軽減するためのアシストスーツ設計のヒントになりました。試作を重ねた後に、実験室内において表面筋電図を用いて検証したところ、引っ張り動作中の肩や腰部の筋電位がアシストスーツの装着により約30%減少することを確認しました。その後、実際に船上で使用してもらい機能面だけではなく、装着のしやすさや対象動作以外の作業を行う際の調整のしやすさなどを考慮した改善を行い実用化に至りました。

3 おわりに

 ダイヤ工業では医療従事者をはじめとして、筋骨格系障害に悩むすべての人々が健康で快適な毎日を送れるよう運動器のサポートに取り組んでまいりました。コルセットやサポーター、アシストスーツといった製品を開発する上で、今回ご紹介した人間工学的な視点、プロセスは非常に重要です。今後も製品開発のその先にあるユーザーの自己実現を後押しできるよう取り組んでいきます。

著者プロフィール

門脇章人 Kadowaki Akito

ダイヤ工業株式会社 製品開発部門 Leader
理学療法士

日本人間工学会、日本臨床スポーツ医学会

岡山県を拠点として、接骨院・鍼灸院・クリニックなどのメディカル業界を中心に日常、スポーツ用などのサポーター・コルセットの開発・製造・販売を行うダイヤ工業にて、主に製品の評価などの研究開発に関わっています。近年、ダイヤ工業ではこれまで培ってきた縫製やフィッティングの技術を活かしたアシストスーツの開発および職場の「腰痛災害」のゼロ達成を目指す健康経営支援サービスを推進しており、労働者が働く現場での生体信号データの測定や作業環境などの現状分析にも従事しています。